産業連関分析
Wassily Leontief氏によって作成された産業連関表は,産業間の生産・購入を行列の形で表した表です.
政策等の波及効果を検討するのに用いることができ,地域経済の分析等のため作成・利用されています.
目次
産業連関表
内生部門・外生部門
産業連関表における取引基本表は各セルが円価値単位の数値である表です.
投入(インプット,縦方向,費用構成)と産出(アウトプット,横方向,販路構成)の関係性を表しており,内生部門と外生部門から構成されます.
内生部門は産業間の投入と産出の関係性をマトリックスにした部分です.
中間投入・中間需要を表します.
外生部門は縦方向では商品の粗付加価値(細分すれば雇用者所得や営業余剰等),横方向では最終需要(細分すれば国内の最終需要や輸出入・移出入等)が入ります.
各列の最終行は投入計による生産額が入ります.
各行の最終列は産出計による生産額が入ります.
同一の産業では投入計=産出計です.
三面等価の原則
外生部門では所得循環における三面等価の原則を見て取れます.
粗付加価値を縦で一括りにしながら見ると,各産業の付加価値が分かります(生産面).
粗付加価値を横で一括りにしながら見ると,雇用者所得・営業余剰などを示します(分配面).
最終生産物と輸入を縦で一括りにしながら見ると,消費・投資・輸出などを表します(支出面).
それぞれ合計した値は一致します.
投入係数
各列において,各投入額/生産額とした値を投入係数といいます.
内生部門を投入係数による行列に書き直したものは投入係数行列といいます.
それぞれの粗付加価値/生産額は粗付加価値係数といいます.
閉鎖経済の均衡産出量分析
モデルと解
投入係数行列
均衡産出量では
が成り立っています.
適当な仮定(ホーキンス・サイモン条件等)を満足していれば,
と求めることができます.
レオンチェフ逆行列と波及効果
レオンチェフ逆行列とは
同じことですが,ある生産物
影響力係数と感応度係数
ある産業が他の産業に与える影響が産業全体と比して大きいかどうかを影響力係数で表します.
同様に,ある産業が他の産業から受ける影響が産業全体と比して大きいかどうかを感応度係数で表します.
影響力係数・感応度係数は1より大きいと,影響力や感応度が産業全体より大きいといえます.
逆は逆です.
応用
開放経済
開放経済では最終需要に並べて輸出入の列を外生部門に設けます.
輸入については大別して2つの仮定を設定することができます.
輸入が非競争的であると仮定する場合は,任意の産業で輸出もしくは輸入の一方しか行われない(ように産業連関表が構築されている)ものとして扱います.
また,輸入が競争的であると仮定する場合は,国内外の生産物が内生部門において,一定の比率で用いられるものとして扱います.
輸入があると,最終需要の増分の一部が輸入増によって吸収されるので,閉鎖経済ほどの波及効果は生じません.
また,競争輸入型では国内需要の合計と輸入の比率で表される国内自給率が均衡産出量に影響を与えます.
地域経済
輸出入に加えて移出入を考慮します.
均衡価格分析
価格行ベクトル
均衡価格は
ですから,
となります.
したがって,賃金や税率の変化等によってある産業
分析上の注意事項
線形性のための仮定
モデルの線形性のため,以下の仮定が置かれています
- 各産業はただ1つの生産物のみを生産する.
- 各産業は規模に関して収穫一定.
- 産業間の外部効果が存在しない.
仮定1・2より比例性,仮定1・3より加法性が保証されます.
一般均衡理論との関係
産業連関分析は価格・数量の調整仮定を無視しています.
例えば,均衡産出量分析では,他の条件を所与として円価値表示した数量のみが動くと考えていますが,これは価格体系が変化しないことを暗黙裡に仮定しています.
また,参入や技術の進歩等の産業構造の変化も捨象します.
線形性のための仮定の通り,外部効果も考えません.
参考文献
地方が自ら産業連関分析できるようにという理念を持って,理論とExcelでの構成方法を示した書籍です.
- 土居 英二,浅利 一郎,中野 親德 (2019)「はじめよう 地域産業連関分析 [基礎編]」改訂版,日本評論社.