このページではリスク管理に関する基礎知識をメモしています.
リスクマネジメント規格としてはISO31000があります.

リスクはマイナスの意味だけでなく,プラスも含めた概念です.
不確実性によって生じうる帰結をなりゆきに任せず,ある程度でも制御して悪い側面を抑え,良い側面を活用できるようにすることが目的となります.

目次

  1. リスクアセスメント
    1. リスク特定
    2. リスク分析
    3. リスク評価
  2. リスクアセスメントの方法
    1. デルファイ法
    2. HACCP(ハサップ)
  3. リスク対応
  4. 事業継続
  5. 予備費
  6. 参考文献

リスクアセスメント

リスクアセスメントとは,リスク特定,リスク分析,リスク評価を行うプロセス全体のことです.

リスク特定

リスク特定は,リスクを発見・記述します.

リスク分析

リスク分析ではリスクの特徴を理解し,また,レベルを決定します.

シンプルなケースでは,リスクをR,傷害の発生確率をP,傷害のひどさをSとして,
R = S × P
と記述できます.

Pはいくつかのファクタから構成されるでしょう.

  • 発生確率
  • 暴露頻度
  • 暴露時間
  • 回避可能性

複数のSとPの関係をマトリックスにして,書き下す方法もあります.

リスクの原因がツリー上であるような場合,FTA法などにより分析することもできます.

リスク評価

リスク評価ではリスク基準を定め,分析したリスクが受容できるかどうか評価します.

リスクアセスメントの方法

様々な方法がありますが,別のページに書いたものもあるので一部だけ.
ISO31010に列挙されています.

デルファイ法

デルファイ法は専門家に匿名で意見を求め,そのフィードバックを取りまとめ,再度意見を求めるという過程を繰り返し,統計的手法で意見を集約します.

米国シンクタンクのランドコーポレーションで,軍事的・専門的な見解をまとめるために開発されました.
専門家同士の力関係・人間関係を除去する手法です.

HACCP(ハサップ)

HACCPハサップは危害要因を分析して(Hazard Analysis),重要管理点(Critical Control Point)を定めて継続監視・記録する工程管理システムです.

米国アポロ計画の中で宇宙食安全確保のため開発されて,後にCODEX委員会(FAO/WHO合同の食品規格委員会)がガイドラインに含め,用いられてきた手法です.

重要管理点を設けることで効率化が図られるものの,その継続性によりコストがかかり続けます.
このため,事後的に手を抜くインセンティブが生じることを考慮して設計・運用すべきです.

リスク対応

リスクへの対応は様々です.

1つはリスクを回避・低減するリスクコントロールです.
リスク回避には事業からの撤退や中止・制限,リスク低減にはリスク源の除去や発生確率・損害のインパクトを小さくすることが考えられます.

また,頻度・損害が小さいリスクは単に保有することも選択肢の1つとなるでしょう(リスク保有).

逆に積極的にリスクをとる方法はリスクテイクと呼ばれます.
リスクにおけるプラスの側面を投資等によって強化しつつ,利益を追求します.

別の方法はリスクファイナンスです.
リスクを他者と共有するリスク共有の例として保険によりリスクを移転・転嫁することが挙げられます.
ちょっとした不運を我慢できないプレイヤーがリスクを転嫁するために支払える対価は,相対的に我慢強いプレイヤーにとっては高すぎる(=リスクをもらって対価を受け取る方がよい)わけですから,プレイヤーの間でリスク共有という形の共存関係が成立します.

リスクファイナンスのもう一つのアイデアは,リスクを組合せることによるリスク分散です.
天候デリバティブはその一例で,晴れのときに売れるが雨だと売れないアイスクリームと,雨だと売れるが晴れだと売れない傘の両方を組み込むことで,リスクの一部を相殺することができます.

リスク対応はリスクを修正するプロセスです
修正後に残ったリスクは残留リスクと呼ばれます.

事業継続

不測の事態に備えるため,事業継続計画BCP: Business Continuity Planning)を立て,事業継続マネジメントBCM: Business Continuity Management)という運用体制を整えることが望まれます.

計画立案に際しては,重要業務分析BIA: Business impact Analysis)により優先事業の絞り込み・洗い出しを行います.
優先事業はある製品の製造再開かもしれませんし,ある顧客への特定期間内への納入かもしれませんが,許認可を受けたり免許更新をある期限までに済ませることかもしれません.

不測の事態を想定する上では,地震が起こる・火災に遭うといったリスクの原因ごとにアプローチするより,建物が使用不可能になるといった結果について検討する方が計画はより柔軟になると考えられます.

予備費

不確実性があるために費用面で余裕を見ておくとき,どのような種類の不確実性であるかによって呼称が異なります.

「コンティンジェンシー」は確率やインパクトが不確定な場合の潜在的な予備費です.
数量上の把握は困難でも必ず生じるであろうコストの予備費は「アローワンス」といいます.
市場要因のコスト変動で遂行時に差異が生じる場合の予備費を「エスカレーション」といいます.

参考文献

  • 公益社団法人日本技術士会登録技術図書刊行会 (2014)「技術士ハンドブック」第2版,オーム社