ジョブチェンジしてきた商業校正者へ贈る用語一覧
転職や新卒で商業校正者になったばかりの方向けに,用語を整理しています(随時更新).
商業校正では製造・販売やデザインをすることが本業の人々を相手にします.作家やライター,編集者ではありません.校正中に何か紙面に書き込む際には,例えば,相手が「句点」と「読点」という言葉を校正者のように区別できるはずだとは考えない方がよいでしょう.用語は書き手と読み手の双方が理解しているものを,正確な内容でやりとりすることを目的として用いるべきです.
ところで,ここで用語をあげてはいますが,Tokyo校正視点をご覧になって一通り学習することを強く推奨します.
Tokyo校正視点では校正用語にとどまらず,様々な語句の意味の違い,校正の手法から作業の流れ,原稿の管理にはじまるミスを防ぐ方法,紙とWebでの媒体の特性の違いなどまで学ぶことができます.
作業者よりも高いところから手ほどきしてくれる,初学者に対してやさしいビジュアルなサイトです.
目次
工程に関する用語
「稿」
印刷物を完成した製品とするならば,材料になるのが原稿です.
「稿」が入っている用語は,材料であるコンテンツがどう動いているかを表しています.
原稿(げんこう)
- 印刷するとき,そのもととなる文章(や絵画・写真など).
入稿(にゅうこう)
- 出版社が原稿を組版所へ渡すこと.
- 出版社が著者から原稿を入手すること.
出稿(しゅっこう)
新聞・雑誌などに広告を出すこと.
「校」
大抵の製品は世に送り出される前に,品質基準を満足するかチェックされます.
校正はそれと同じ役割を担っており,「校」の入った用語はチェック方法などを表します.
校正(こうせい)
- くらべ合わせて,文字の誤りを正すこと.きょうせい.
- 校正刷と原稿とを照合するなどして文字や内容の誤りを正し,体裁を整えること.版下や原画との照合についてもいう.
色校正(いろこうせい)
印刷で,多色刷りの印刷物を作るとき,色調などを原稿と照らし合わせて整える校正作業.色校.
校閲(こうえつ)
印刷物や原稿を読み,内容の誤りを正し,不足な点を補ったりすること.「原稿を—する」「—を受ける」
「校」その2
校正に関する作業がどの段階であるかを表した用語のグループです.
内校(うちこう)
著者または出版社に校正刷りを渡す前に,印刷所が行う校正.
出校(しゅっこう)
- 校正刷りが印刷所から出ること.
初校(しょこう)
原稿をもとに組まれた最初の校正刷り.また,その校正.
はじめの原稿である「初稿」とは異なります.
再校(さいこう)
初校に次ぐ二度目の校正.また,その校正刷り.二校.
その後,三校,四校,…,最終校と続きます.
念校(ねんこう)
責了にしたあとで,念のためにさらにもう一度校正すること.
また,その校正刷り.
「赤」・「朱」
校正で発見されたエラーは赤色の文字で訂正されていました.
「赤」・「朱」はエラー訂正に関する用語を作ります.
赤字(あかじ)
- 赤インクなどを用いて,校正で書き入れた文字や記号.朱.「—を入れる.」
入朱(にゅうしゅ)
添削や訂正のため,文章に朱を入れること.
「了」
完了の「了」が用いられている言葉は,ある工程が完了したことを意味します.
校了(こうりょう)
校正が完了し,印刷しても差し支えない状態になること.
責了(せきりょう)
〔「責任校了」の略〕訂正箇所が少ない時,印刷所に責任をもたせて訂正させ,校正を終了すること.
「版」
版画の「版」は印刷のインクを乗せる側を表していました.「版」を使った用語のいくつかは,印刷に関わる工程について手作業が現代版にアップデートされたものです.
版下(はんした)
- 版木に貼って彫るための,書画の下書き.
- 製版用の文字・図表・絵画などの原稿.
製版(せいはん)
印刷用の版面をつくること.活字原版・写真凸版・オフセット版・石版・グラビア版などをつくること.また,その版面.整版.
組版(くみはん)
活版印刷では,スタンプのような文字のピースを1つずつ並べ組んで文章を作っていました.
そこから来た言葉です.
- 活版印刷の工程の一.原稿に従って,活字・込め物・罫線(けいせん)その他の材料を組み合わせて,一ページごとの版を作ること.植字.
- 文字・写真・図版などを組み合わせ,紙面を構成すること.
下版(げはん)
重たい機材は1階に設置されるものです.
印刷所の上の階で組版が完了した後,印刷機のある1階に版を持っていったことから,校正まで済んだものを印刷工程に移すことを下版と呼びました.
印刷で,校了になった組版を印刷または紙型どりの工程に移すこと.降版.
刷版(さっぱん)
主として平板印刷で,実際の印刷に使用する版.原版と区別していう.
改版(かいはん)
出版物の内容を改め,版を新たにして出版すること.また,その出版物.
「読」
校正者は書籍などを読者が普通に読めるようにするため校正します.
あえて「読」を入れてある用語は,チェックのための特殊な読み方であることを表しています.
素読み(すよみ)
- 原稿と引き合わせないで,校正刷りだけを読みながら校正すること.「—をかける」
素読みが校正の方法の1つになっているということは,原稿や修正指示通りに作られたものが,コンテンツとして常に正しいというわけではないことを暗示しています.
査読(さどく)
報告書や学術論文で使われる語です.
水準に達しているかどうかを審査するために読むこと.
校正対象となる成果物・出力物の種類に関する用語
校正刷り(こうせいずり)
印刷で,本刷り前に校正をするための刷物.ゲラ刷り.ゲラ.プルーフ.
ゲラ
喫水の浅い,人力で櫂を漕いで進む軍艦であったガレー船(galley)に見立てられた浅い盆で,活字組版が整えられたり保管されたりしていたそうです.
〔galleyから〕
- 活字組版を収める箱状のもの.
- 「ゲラ刷り」に同じ.
活字組版をゲラ(1)に収めたまま,校正用に刷ったもの.また,広く,校正用に刷ったもの.校正刷り.ゲラ.
プルーフ
- 校正刷り.
カンプ
〔comprehensive layoutの略〕広告のプレゼンテーションなどで,制作意図を正確に知らせるため,仕上がりに近く描かれた絵や図.
青焼き(あおやき)
「青写真(1)」に同じ.特に,印刷直前のフィルムから複写した校正用のもの.藍焼き.
ここでの「青写真(1)」は鉄塩類の感光性を利用した複写印画のことで,ある化学反応の結果,青地に白の印画が得られたものです.
こういったブループリントは設計図などの複写に用いられていました.
白焼き(しろやき)
青焼きと異なり,フィルム原版に出力せずに組版データから刷版へ出力する方式です.
白焼き校正では,面付けデータを大型のプリンタで出力し,それを折丁のように紙折した形で印刷会社から出校したものを点検します.責了の校正紙(責了紙)の赤字が正しく直されているか,ページの順序は正しくなっているか,刷り位置は間違いないかなどの最終確認をここでします.
紙面レイアウト等の指示の際に使われる用語
ノンブル
〔印刷用語〕印刷物のページの順序を表す数字.〔英語のnumberにあたる語で,「数」の意.〕
トンボ
- 印刷で,刷り合わせを正確にするため,版面につける見当合わせ用の十字形や鉤型の印.
文字組みに関する用語
禁則処理(きんそくしょり)
ワープロの文字表示やコンピューター組版などで,行頭に句読点や括弧の受けなどをおかない,というような一定の禁則によって,文字を適切な位置に移動し,生じた空きを調整すること.
ぶら下げ(ぶらさげ)
ぶら下げ組みとは,句読点等が各行の末尾にきた際に,他の文字よりはみ出させて組む手法
カーニング
ワープロ-ソフトなどで,文字の間隔を調整して見やすい並びにする機能.
縦中横(たてちゅうよこ)
縦書きの文章の中で,一部だけ横書きに数字を入れるようなときの組み方です.
縦書き原稿用紙のあるマスに「20」と書いて,次のマスで「年」とするような書き方になります.
デザインに関する用語
DTP(ディーティーピー)
コンピューターを用いて,原稿の作成,レイアウト,版下作成など,出版のための一連の作業を行うこと.デスクトップ-パブリッシング.
Creative Cloud(クリエイティブクラウド)
Adobe社のデザインに関するソフトウェア群とサービス.
CCと略される.
もしこの項目がわからなかった場合,以下のソフトウェア群と拡張子,用途もあわせて覚えておくとよいかと思います.
原稿にこれらの拡張子のものが入ってくることもありますので.
- Illustrator(拡張子ai):イラスト,紙面デザイン
- Photoshop(拡張子psd):写真,画像加工
- InDesign(拡張子id):出版印刷,電子書籍
- Acrobat DC(拡張子pdf):無料で閲覧用のAcrobat Readerとは異なる.文字編集やテキスト抽出,差し込みなども行える.
コンタクトシート
画像の一覧のことです.
タイポグラフィー
- 活版による印刷術.
- デザインにおいて,活字の書体や,字配りなどの構成および表現.
記号に関する用語
約物(やくもの)
印刷で,文字や数字以外の各種の記号の総称.句読点・括弧類・圏点・漢文用の返り点など.
中黒(なかぐろ)・中点(なかてん)
- 単語を並列するときの区切りなどに用いる記号.「・」のこと.
圏点(けんてん)
注意をひいたり強調したりするため文字のわきに付ける点.傍点.「﹅」「•」「◦」など.
音引き(おんびき)
- 長音符のこと.「ー」→棒引き